江戸っ子の褒め言葉「粋でいなせ」

江戸っ子の褒め言葉「粋でいなせ」

「粋でいなせ」という褒め言葉があります。どちらも粋(いき)、いなせともに気風がよくかっこいい、特に江戸っ子の男性に使われることが多い言葉ですね。さて、褒め言葉であることはわかりますが、どのような意味を持っているのでしょうか?

もともと、粋は意気から転じた言葉で、現在で言えば気合を指すような言葉であったと言われています。三省堂国語辞典によると、

気性・態度・身なりがあか抜けしていて、自然な色気の感じられること。

とあります。辞書の解説を読んでいるだけでも格好がいいですね。ではこのあか抜けしている気性・態度・身なりとはどのようなことを指すのでしょうか。

 

発達させた江戸のカラー四十八茶百鼠

様々な「粋」がありますが、庶民の服装がその代表的なものといえるでしょう。当時の庶民は服装に派手な柄や色が禁じられていました。用いて良い素材は木綿か麻のみ、使える色も茶色・ねずみ色・納戸色(藍色)の3種類のみといった具合です。さて、納戸色とは何でしょうか。読んで字のごとく、物置の暗がりのような色のことです。薄暗い様子をそのまま色に表していました。

閑話休題。さて、その3色のみしか使うことが許されなかった江戸のデザイナー達は、その3色にきわめて多くのバリエーションを発明しました。「四十八茶百鼠」と呼ばれるほどのバリエーションがその3色から生まれました。また、それぞれに多くの色に異なった名前が付けられており、赤っぽい茶色を指す江戸茶色、黄色がかった利休茶、深い緑の千歳茶など様々な色の名前が生まれました。決して派手さはないが、微妙な違いを楽しむ色の文化がここに生まれたといえるでしょう。

 

粋に育まれた江戸小紋

また、派手な柄を衣装にあしらうことも禁じられていました。最もこれらは庶民のみではなく、大名も派手な柄を禁じられていました。そこで、遠目には無地、しかしながら近くで見れば手の込んだ模様が施されている江戸小紋や縞模様などの発達につながりました。一見、地味でありながら手が込んでいる様が粋なものとして考えられていたのです。更には裏地に派手な模様を忍ばせるといったことが粋とされていたようです。またそれを理解できる人を通(つう)と呼びました。

足りなければ野暮、行き過ぎると気障とされる、絶妙なバランスの上に立っているもの、それが粋なのです。

 

日本人に深く根ざした格好良さ

また、いなせとは、鯔背と書きました。「鯔(いな)」とは、ボラの幼魚の呼び名であり、江戸時代に日本橋の魚河岸で働いていた者達のマゲがその背びれに似ていたために、そのように呼ばれるようになったと言われています。魚河岸の若者らしく、威勢がよく、きっぷの良い様をさしていました。
粋でいなせ、とは、日本人の心に深く根ざしている格好よさの概念なのでしょう。