呂色師-素手で輪島塗の光沢を引き出す職人

呂色師-素手で輪島塗の光沢を引き出す職人

升井克宗様

輪島塗とは

wargoの商品・ 輪島漆塗一本簪の塗り玉を製作して下さっている、呂色屋の升井ご夫妻に輪島塗と輪島市をご案内頂きました。 呂色とは膨大な輪島塗の工程の中の、主に仕上げの磨き工程にあたります。輪島塗は工程ごとに作業が細分されており分業化、その磨きの工程を専門に請け負うのが呂色屋です。鏡のようにハッキリ顔が映るほど磨きあげる為、磨ぎだけで6段階の工程を重ね、最終工程では磨き粉だけを使い指先でこすって仕上げていきます。この繊細な作業は手荒れのひとつで傷になり、手の油の分量が多くても少なくても上手くいきません。その磨きのために体調管理や荷物の扱いにも注意し手を守っているとのこと。途方も無い細やかな作業の積み重ねで生まれた”艶”が輪島塗の魅力の一端を担っています。 磨き工程以外にも変わり塗りを施すのも呂色屋の仕事のひとつ。乾漆という粉状の漆を、塗った漆の上に撒いてマットな表面仕上げをすることも一つの技法です。また10色の乾漆を使い分け絵画を描くことも可能で、こちらの升井様では更に多い30種の乾漆を駆使して乾漆画を制作されています。繊細に漆を塗り重ね、写実的な龍や富士、植物を器にあしらったりと多岐にわたります。その色粉を使い分けることで、彩り豊かな数珠玉を作成するなど新たな商品開発にも挑戦していらっしゃいます。

輪島塗は厳しい状況にあります。海外からの贋作が流通し始めたことで輪島塗の規定を厳しく設けたものの、価格を下げる工夫をしていた多くのものが規定を外れることとなり、名称を変えて販売しています。デザインをせずとも売れる時代は終わり、売れるものを作る暗中模索が続いているそうです。大きな販路を持っていた塗師屋が次々と潰れ、誰も後継者をとらない現状。この先20年で腕を伝承された職人は途絶え、技術だけが養成学校などに残るだろうと、先を憂うお話しに寂しさが募るばかりでした。

塗師屋-開発から販売までを統括するプロデューサー

藤八屋 塩士純永様

輪島塗とは塗師屋とは、製品開発から製造・販売までを統括する、総合プロデュースを担う役割。その塗師屋である藤八屋は輪島の中心、朝市通りのほど近くに本店と、作業場を内包する工房長屋店の2店を構えていらっしゃいます。本店の内装は拭き漆で上品に仕上げられた品格のある佇まい。ご自身の夢と目標の詰まった店を守る、塩士様の控えめながら誇らしげなご案内が印象的でした。
藤八屋はお弁当の箱を売っていた事から、OEMの受注を積極的に行っています。長年お付き合いしている鰻屋さんへは季節ごとに違う絵柄をお届けすることも。伝統的に行われている修理対応「なおしもん」も作り手の義務として行うなど、細やかな心配りがお客様との信頼の根底に感じられます。今は産地が疲弊しているとこちらでも伺いました。一時は輪島塗のブローチが売れた時代もあったそうですが、現在では宝飾店に持ち込んでも財産価値として見られることはなくなってしまいました。それでも塩士様ご自身で方々へ営業へ周り、試行錯誤の商品開発を続けられていらっしゃいます。
塗師屋が抱える工程の一部を見学させて頂きました。こちらの藤八屋では下地から上塗までを工房で一貫して行っておられます。輪島塗の特徴である布着せ(一部に布地を張り補強する)、地の粉を漆に混ぜ7工程もかけて塗り研ぎを繰り返す地塗りと地研ぎ、さらに塗り固めた地を固める中塗りの、一連の作業を実地で拝見いたしました。輪島塗の特性の最たるものは堅牢であること、その堅牢に仕上げた土台に上塗りを重ねて初めて美しい艶が生まれます。いくら研ぎにくくても上質な地塗りにするため固く地の粉を混ぜて塗りこむ手さばきは、へら一本で塗り上げたとは思えない均一な仕上がり。中塗りを終えた漆器を固める塗師風呂には湿度と温度が保たれ、普段は職人以外の出入りを禁ずる細心の注意が払われた環境が作られていました。鳥の羽でひとつひとつ埃を取り払う作業にすら心血をそそがれています。この堅実な工程を守ることで、伝統と信頼を守られていらっしゃいました。