木地屋-漆器の土台を切り出す木の専門家
四十沢木材工芸 四十沢宏治様
塗りの前工程、土台となる木製品を扱うのが木地屋。その事務所にお伺いし、数々の木地を拝見させていただきました。指物(箱形)木地を主に制作されていますが、花台や丸盆なども手広く制作されています。事務所奥の倉庫を伺わせていただくと、木地が溢れんばかりに詰まっていました。ブローチやかんざし、バングルも扱ったご経験があり、参考に様々な木地を拝見させていただきました。
蒔絵師-質実剛健な漆器に加える華
代田和哉様
上塗りの終わった漆器に蒔絵を描く代田様をご紹介いただきました。仕事場に上がらせて頂くと蒔絵の終わった箸が並び、お話を伺いながら手がけたお品を拝見いたしました。寡黙で戸惑ったご様子もありながら、手がけたお品には遊び心溢れるアイディアがあり、図柄は写実性に富みながら極小さな図柄でもしっかりした線で描かれています。蒔絵は線が命と伺いましたが、まさにこれがと納得できる迷いのない品格高い描画の数々。螺鈿の美しい青と代田様の好奇心が結晶となったような見事なカワセミが深く印象に残りました。
漆に恋をして来日したイギリス人作家
スザーン・ロス様
最後に来日30年を迎えるスザーン様を訪問いたしました。山の麓に建てられた小さな工房は、絵本に出てくるようなカントリー調に仕立てられた素敵なお家。全ての工程をこちらの工房で自ら仕上げて作品制作をされており、時には布地の変わりにレースを使った作品まで作る事ができます。自身の制作にしっかりとした信念をお持ちで、それは「だましものをつくりたくない」という強い言葉に現れています。以前、宝石に蒔絵を描く作品を作り百貨店などで取り扱われていましたが、やがてそれは石の傷みを隠す仕事へと為り変わってしまいました。作り手だからこそ、良いものを作りたいという心に反して続けることは出来なかったとスザーン様は残念そうに語られました。更に体系化された組織への疎外感も強く感じられ、輪島塗の為に身を尽くすのではなく、自らの作品を高めていく決意を固め制作を続けられているそうです。漆芸を学んで10年、活動を続けて20年を費やし漆芸と輪島塗を愛してこの地に住まわれる中で、最後に私たちに聞かせてくださったのはやはり輪島塗の衰えでした。「あなたは漆塗りを使ってる?」どうにも胸をつく痛い言葉でした。誰よりも漆芸と輪島塗に惚れ込み学んできたからこそ、日本人に求められない漆器の寂しさを代弁するように、私たちの知らない漆について熱くお話ししてくださいました。
売るのも買うのも女性が主役
朝市通り
輪島市の中心にあたる朝市通りは毎朝8時から”朝市”が始まります。近隣の漁港で上がった魚で作った干物や農作物、もちろん輪島塗まで。様々なものを輪島市の女性が軒を連ね、屋台を連ねて販売しています。時には重いリヤカーの屋台を引いていたり、ダンボールに腰掛けてささやかな作物を売っていたり。輪島の朝市は売り手も買い手も女性ばかり。それは輪島の女性が「亭主の二、三人養えない女は甲斐性なし」とまでいわれているからとか。小さなお金をコツコツ稼ぐ、働き者な女性の象徴といえる朝市でした。
輪島塗の魅力すべてが詰まった工房
輪島工房長屋
朝市通りのほど近くに趣のある長屋が軒を連ねる、輪島工房長屋を訪れました。こちらは資料館やギャラリー、土産物屋に工房が集まる輪島塗を紹介する集合施設。除き見ることがむずかしい上塗りの工程など、ガラス窓越しに手元を見る事ができます。今までのコラボ作品なども保管されており、ルイヴィトンがデザインした小物箱を拝見いたしました。蒔絵でモノグラムをあしらったこのデザインは、能登半島地震の復興支援として行われたもの。市を上げてこの伝統を守り残したいという意思はすでに芽生えて形を成している様子を伺い知りました。