猫はどうやって日本人と深い関係になったのか
(Artist) Kawanabe Kyosai
穀物の栽培がはじまった古代日本においては、収穫した穀物を食い荒らすネズミは人間にとって悩みの種でした。そこでネズミを獲物とする猫は穀物の倉庫番として重宝されるようになります。 ネズミを捕る猫とネズミの害から逃れられた人間。共に暮らしたことで、双方にとって利益が生まれたのです。 そして、猫は人間の近くにいることで、水や食べ物にありつけて天敵からも守られ、雨露がしのげる安全な暮らしやすい環境が手に入ります。人間の方も猫と共に暮らすうち、癒しを得ていた可能性も大いにありますね。 こうしてお互い共存関係を持ったことをきっかけに、猫と人間は関係を深めていったのではないでしょうか。 人間をネズミの害から解放した猫は、やがて日本において、富や豊かさの象徴や守り神として親しまれる存在となるのです。
日本に猫はどこからいつ頃来たのか?
猫と人間の関わりはおよそ9500年前、中東付近でのリビアヤマネコの家畜化がはじまりとされています。そして猫は古代エジプト王朝からヨーロッパ全域、さらにアジアにも広まり、その後中国を経て日本に渡ってきたというのがおおよその経過です。 猫が日本にやってきたのは当初、奈良時代から平安時代の1200〜1300年前とされていました。中国から仏教が伝えられた際、経典をネズミの害から守るため船に一緒に乗せられてきたというのが長い間の通説になっていました。弥生時代〜
その後、長崎県壱岐市のカラカミ遺跡でイエネコのものとされる骨が発掘されました。これにより今からおよそ2100年前、弥生時代からすでに日本には猫が存在していたという説が濃厚になりました。 もしこの説が本当だとしたら、猫が日本にやって来た歴史が数百年早まります。猫好きさんにとってもかなりのニュースなのではないでしょうか。 古代日本の猫は現在のような愛玩目的ではなく、貯蔵していた穀物をネズミや昆虫から守る役割を果たしていたようです。高貴な身分の人々に可愛がられた猫 平安時代〜
(Artist) Reizei Tamechika
平安時代になると、猫はようやく現在のような愛玩動物として扱われはじめます。しかし、まだまだ数も少なく貴重な存在であったため、猫の飼育は限られた高貴な身分の人のみに許された楽しみだったようです。 第59代天皇・宇田天皇は父である光考天皇から譲り受けた黒猫を飼っていたことでも有名ですが、日記「寛平御記」にもその黒猫の記述が残っています。これは日本最古の飼い猫の飼育記録と言われており、さしずめ現代の猫ブログのルーツといった位置付けになるのかも知れません。 さらに第66代天皇である一条天皇も無類の猫好きで、猫の誕生日を祝うための儀式を行ったり、昇殿が許されないからと飼っていた猫に階位を与えたという話もあります。 また「枕草子」によれば、猫に乳母として女官がつけられたともされます。
やっぱりネズミが決め手? 安土桃山時代〜江戸時代
慶長7年(1602年)になると、ネズミによる害を減らすべく猫をつながずに放し飼いにするようお達しが出されます。この令のおかげでネズミの害は激減したと言われており、なかなかの効果があったようです。 とはいえ江戸時代初期までは猫の数が増えることはなく、依然としてその存在は貴重でありました。そのため数少ない猫の代わりに、ネズミを駆除する力があるとして猫の絵が重宝されていたという史実もあります。 縁起物である招き猫が生み出されるなど守り神としても親しまれるようになり、やがて庶民の間でもネズミ駆除のために猫を飼う習慣が広まって行きました。猫を愛した人々と文化 江戸時代〜現代
歌川国芳は江戸時代末期に活躍し、猫にまつわる浮世絵を数多く残した浮世絵師ですが、かなりの愛猫家であったことでも知られる存在でした。 国芳は数匹から十数匹の猫を飼い、死んだ猫のためには仏壇を用意し、位牌も作って供養していたほどです。また創作は猫を膝に抱きながら行うなど、本当に猫を愛していたことがうかがえます。 明治になるとさらに多くの絵画に猫が描かれるようになります。中でも竹久夢二の美人画に描かれた猫は大変有名で、妖艶な美人画に趣を添えています。また、文芸作品でも猫が登場するものが多数見られますが、やはり代表的なのは夏目漱石の「吾輩は猫である」ではないでしょうか。 日本においても猫は多くの芸術のモチーフとされ、人々に愛され続けています。 やがて、第二次世界大戦が終わって庶民にも生活のゆとりが生まれると、動物をペットとして飼う家庭も増え始めました。犬人気が衰えることはありませんが、猫の人気は年を追うごとに高まり、飼われる数も増加し続けています。 自由気ままな性格と愛らしいルックスがやはり人気の秘密ですが、犬に比べ散歩などの世話がかからないなど、猫の特性と日本の住宅事情や家庭環境がマッチしたことも要因の一つとされています。まとめ
(Artist) Suzuki Harunobu
以上、日本の歴史において、猫と人間がどのように関わってきたのかをご紹介しました。 今こうして猫が日本にいるのは、数千年前さまざまな道筋をたどってきてくれたからだと思うと胸が熱くなりませんか? 日本にやってきて猫は多くの人々と関わり、そして魅了し続けました。猫の可愛らしい魅力に触れると先人たちの気持ちに共感せずにはいられません!